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毎日新聞の記事から「除せんの現実と模索」

風知草:除染の現実と模索=山田孝男

 木村真三(44)は原発被災地の「赤ひげ」である。福島の高線量地域に住んで住民の相談に乗り、除染の先頭に立つ。

 独協医大准教授(放射線衛生学、医学博士)。厚生労働省所管法人の研究者だったが、原発禍の初動調査を制止され、即刻辞任。3月15日から現地に入り浸り、実地調査にもとづいて放射能汚染地図を作製、住民支援に駆け回ってきた。

 その活躍はNHK教育テレビのETV特集で3回にわたって紹介され、大反響を巻き起こした。知る人ぞ知る。

 その木村にして「除染は困難を極める」と言う。

 「特別な道具を使わず、個人で家屋をまる2日間、必死で除染しても、放射線量は半分程度にしか下がらない」

 「ホットエリア(局部的に線量の高い地域)では、一つの家を除染するのに、半径100メートルを除染しなければ(自然状態に近い)0・1マイクロシーベルト(毎時)まで下げられない。現実には不可能に近いと思います」

 首相が所信表明で「全力で取り組む」決意を示し、原発事故担当相が「経済性は度外視してでもやる」とフォローした除染の、それが現実だ。

 現実を知るには、まず放射線量を測らなければならない。先日、福島市を往復した際、出発時に「0」マイクロシーベルトだった筆者の線量計の目盛りが、1泊して帰宅すると「2」マイクロシーベルト。さらに3日間、自室に放置したら「6」マイクロシーベルトへハネ上がった。

 「東京も高いですね」と高名な専門家に尋ねたら、こんなご教示をいただいた。「自然放射線が毎時0・05マイクロシーベルトあるから当たり前。福島滞在24時間で2マイクロシーベルトはふつうです」

 筆者が携行したのは、身につけて外部被ばくの蓄積を見る線量計。大気中の瞬間線量を測る測定器とは機能が違う。国内製造大手・日立アロカメディカル社によれば、売れ筋の線量計が約3万円。測定器だと24・5万円。ともに品薄で、測定器は数カ月待ちだという。

 「震災前は年に数百個だったものが、今は毎月400個から500個出ます」(同社)。全国、とくに関東圏からの問い合わせが多いそうだ。

 さもありなん。近ごろ首都圏は高線量スポットと除染の話題でもちきりだから。

 赤ひげ・木村はこう言っている。「むやみにビビる必要はないが、正しい防御は必要。正しく怖がるべきです」

 この夏、京都五山の送り火から、セシウムのついた陸前高田の松材が締め出される騒ぎがあった。これなどビビり過ぎの典型だと木村は言う。

 原発震災直後、濃密な放射能雲が列島をおおった。それ以前の核実験やチェルノブイリも含め、日本列島は既に汚染されている。その濃度に比べれば、松の中のセシウムなど何十万分の1に過ぎない……。

 とはいえ、過度の被ばくが遺伝子を傷つけ、種の保存を脅かすという基本は変わらない。食品からの内部被ばくの制御も課題だ。正しい防御とは、正しい除染とは何か--。

 その答えを求め、木村はいま、ウクライナ・ジトーミル州のナロジチ地区に入っている。通算15回目になるチェルノブイリ汚染地域の調査だ。

 脱原発か、原発維持かを問わず、人類は、既に飛散した放射性物質と共存していかなければならない。それは決意表明や予算づけだけでは解決しえない難問であることを、理解しなければなるまい。(敬称略)(毎週月曜日掲載)
by fukushimakyoto | 2011-10-18 01:38 | 報道関連