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【学習資料】「原発事故子ども・被災者支援法」を活かしていくために

「原発事故子ども・被災者支援法」を活かしていくために
2013.1.18 
奧森祥陽(おくもり・よしはる)
うつくしま☆ふくしまin京都事務局長
京都・市民放射能測定所代表

1 はじめに~「うつくしま☆ふくしまin京都」の取り組み紹介
 ・2011年 4月 会津若松市の避難所への業務応援で原発事故避難者と出会う
        京都に避難している若者との出会い
 ・2011年 6月 交流会の開催から「うつくしま☆ふくしまin京都」の立ち上げへ
 ・2011年 9月 避難の権利と完全賠償の実現をめざして取り組みを開始する
 ・2011年11月 原子力損害賠償賠償紛争審査会(東京)へ区域外避難(いわゆる自主避難)者への賠償適用を求めて申し入れ。避難者の手記を届ける。
 ・2011年11月 市民放射能測定所設立をめざしてキックオフ集会開催
・2011年12月 第1回年越しまつり(六孫王神社境内)の開催
        原発賠償説明会&相談会の開催(京都市伏見区、宇治市)
 ・2012年 5月 京都・市民放射能測定所を開所する(伏見区丹波橋)
 ・2012年 9月 原発事故子ども・被災者支援法に基づく具体的施策の実施を求める集い(谷岡参議院議員を招いて)
        京都府・京都市に対して、支援法の先取り実施を求める申し入れ実施
        復興庁交渉(平和と民主主義をめざす全国交換会、避難・移住・帰還の権利ネットワークなどと共同で実施)
 ・2012年11月 避難者がつくる京都公聴会の開催 復興庁から2名が参加
            復興庁交渉
 ・2012年12月 第2回年越しまつり(六孫王神社境内)の開催
            京都市への要請行動

2 原発事故被災者への支援制度の枠組み(「原発事故子ども・被災者支援法」以前)
(1)原子力災害対策特別措置法    警戒区域、避難指示区域等の適用
(2)災害救助法の適用        東日本大震災被災者(地震・津波の被害者)
  ・国が地方公共団体、日本赤十字社その他の団体及び国民の協力の下に、応急的に、必要な救助を行い、災害にかかつた者の保護と社会の秩序の保全を図る。(第1条)
  ・この法律による救助は、都道府県知事が、政令で定める程度の災害が発生した市区町村内において救助を必要とする者に対して行なう。(第2条)
  ・救助の種類は、①収容施設(応急仮設住宅を含む。)の供与、②炊出しその他による食品の給与及び飲料水の供給、被服、寝具その他生活必需品の給与又は貸与、④医療及び助産、⑤災害にかかつた者の救出、⑥災害にかかつた住宅の応急修理、⑦生業に必要な資金、器具又は資料の給与又は貸与、⑧学用品の給与、⑨埋葬、⑩その他政令で定めるもの (第23条)
  ・救助は、都道府県知事が必要があると認めた場合においては、前項の規定にかかわらず、救助を要する者に対し、金銭を支給して行うことができる(第24条)
   区域外避難者(自主避難者)には、原発事故の被災者としての支援ではなく、あくまで東日本大震災による被災者として災害救助法+α(自治体独自支援)の支援が行われているだけである。災害救助法適用地域は9県194市町村(地区)で罹災証明、被災証明がある方が支援の対象となっており、東京都、神奈川県は災害救助法が適用されている地域はないので、東京・神奈川からの避難・移住者には、東日本大震災の被災者としての支援もありません。
   原発事故避難・移住者に対する支援は、震災・津波被害者に対する支援とは違う内容の支援が必要ですが、「原発事故子ども・被災者支援法」成立以前には、支援制度は存在していなかったのです。

3 原発事故による損害賠償の枠組みについて
(1)原子力損害の賠償に関する法律(原子力損害賠償法)
 ア 原子力推進のための法律
  ・目的    被害者の保護と原子力事業の健全な発展 (第1条)
 イ 無過失責任・責任の集中の原則
  ・無過失責任 故意や過失がなくとも賠償責任を負う  (第3条)
   *現在、東電が行っている賠償は無過失責任の考えに基づいて行われているもので、加害責任を認めて賠償しているわけではありません。東電が不遜な態度をとり続けている理由がここにあります。
  ・免責規定  異常に強大な天災地変または社会的動乱によって生じたときは免責される
  ・責任の集中 事業者(福一原発事故の場合は東電)に責任を集中させている。メーカーの製造責任は問われない (第4条)
 ウ 原子力損害賠償紛争審査会(原陪審・第18条) ←文部科学省におくことができる
  ・原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における和解の仲介
   → 原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)
  ・当該紛争の当事者における自主的な解決に資する一般的な指針の策定
   → 指針や総括基準の策定
(2)区域外避難者に対する賠償水準について
 ア 中間指針第1次追補(2011年12月6日原陪審)
  ・福島県内23市町村(原発から5キロ圏内)からの区域外避難者への賠償を認定
    子ども・妊婦は40万円(事故発生から2011年12月までの期間)
    おとな8万円(事故発生当初の損害)
    →その後東電は、子ども・妊婦については60万円を賠償することを決めています。
 イ 総括基準(2012年2月14日原発ADR)
  ・自主的避難を実行したものがいる場合の細目
   避難の実費が中間指針追補の額(40万円又は8万円)を上回る場合において、①子供又は妊婦が含まれているか、②避難開始及び継続した時期、③放射線量に関する情報の有無とその内容、④当該実費の具体的内容、額及び発生時期などを総合的に考慮し、ア 避難費用及び帰宅費用 (交通費、宿泊費、家財道具移動費用、生活費増加分) イ 一時帰宅費用、分離された家族内における相互の訪問費用 ウ 営業損害、就労不能損害(自主的避難の実行による減収及び追加的費用) エ 財物価値の喪失、減少(自主的避難の実行による管理不能等に起因するもの) オ その他自主的避難の実行と相当因果関係のある支出等の損害を認めた。
  ・原発ADRに和解申し立てした場合の弁護士費用
   和解案に弁護士費用3%を認定。
ウ 中間指針第2次追補(2012年3月16日原陪審)
  ・「本年(2012年)1月以降、区域の設定は行わず、子供及び妊婦について個別の事例・類型毎に判断」(平均的・一般的な人を基準としつつ合理性を有しているか否かを基準とする。)
   → 東電は2012年12月に「自主的避難者に係る賠償金ご請求書」を避難・移住者に送りつけ、一人4万円の追加賠償で、自主的避難者に対する賠償の合意をさせようとするなど、まったく不誠実な態度をとり続けています。

(3)原発ADRの問題点
 福島原発事故の賠償を、裁判によらず調停で早期に解決するための組織であるはずの原発ADRが機能していないのが大きな問題です。少し古い資料ですが、昨年8月31日段階で3793件の申し立てに対して、解決は520件にとどまっています。解決が進まない最大の原因は、賠償の根拠となっている原子力損害賠償法が原発推進、原発事業者を守ることを目的としており、原発賠償の枠組みには強制力がなく当事者の合意がなければ解決にならないからです。加害者と思っていない東電はいくらでも和解を拒否できるのです。
  原発ADRを、原子力ムラに利害関係をもたない中立的第三者で構成される強制力を持つ紛争処理機関に作り替えることが必要となっています。

4 避難する権利と総合的な支援に関する法的根拠について
(1)国際基準 ~国連人権委員会の「国内強制移動に関する指導原則」
  指導原則は紛争や大規模な自然災害等により国内避難民となった人々を保護するための国際的な規定です。国内避難民には、「自然もしくは人為的災害の影響の結果として、またはこれらの影響を避けるため、自らの住居もしくは常居所地からのがれもしくは離れることを強いられまたは余儀なくされたもの」が含まれます。
  「国内避難民は、十分平等に、自国において他のものが享受するものと同一の国際法および国内法上の権利および自由を享受する。国内避難民は、国内避難民であることを理由として、いかなる権利および自由の享受においても差別されてはならない」(原則1)と規定され、「国家当局は、その管轄内にある国内避難民に対して保護および人道的援助を与える第一義的な義務および責任を負う」(原則3)、「国内避難民に対して人道的援助を与える第一義的な義務および責任は、国家当局に帰属する」 (原則25)とされています。
  つまり、放射能汚染により避難区域等以外から避難(以下、区域外避難)した人は、「自主的に避難」したのではなく「避難を余儀なくされた」のです。「避難する権利」を有しており、それを実効的なものとするため、健康で文化的な生活が政府により保障されなければならなりません。
(2)国内法では ~日本国憲法
   第13条幸福追求権、22条1項居住、移転の自由、第25条生存権保障に根拠づけられます。
   第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
    第22条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
    第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
 ・日本には上記の指導原則に基づく国内避難民保護の法律はなかったが、福一原発事故による放射能被害を受けて、チェルノブイリ法に学び、昨年6月「原発事故・子ども被災者支援法」が成立しました。これは、今日の学習会の本題なので、後ほど詳しく触れます。

5 「原発事故子ども・被災者支援法」について
 *「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」 *別紙参照
(1)原発事故子ども・被災者支援法の意義
  昨年6月に「原発事故こども・被災者支援法」が超党派の議員立法により全会一致で成立しました。この法律は、「チェルノブイリ事故から5年後に制定された「チェルノブイリ法」を参考に、福島をはじめ全国からの運動の力で実現したものです。この法律は、支援対象となる放射能汚染地域への居住、他の地域への移動、移動前の地域への帰還について、被災者自らが選択できる―選択的避難の権利―ことを明確にし、それぞれに必要な支援を国が行うことを義務づけた画期的なものです。
  しかし、被災者生活支援に関する基本的方向や支援対象地域の決定、支援施策の具体化については、現在復興庁が基本計画を策定中であり、原発事故被災者、避難・移住者が一人も切りすてられることがないよう、しっかりと声を上げ監視していかなければなりません。
  政府、官僚による「原発事故子ども・被災者支援法」の骨抜きを許さず、法律が義務づける「基本計方針」(第5条)に具体的施策を盛り込ませることが当面の課題です。とりわけ、「支援対象地域」(第8条)を少なくとも年1ミリシーベルト超(内部被曝、外部被曝の合計)の地域とすることは、被ばく低減化の観点からきわめて重要です。支援対象地域は福島県にとどまるものではなく、東北や首都圏の汚染地域も支援対象地域として認めさせなければなりません。きめ細かな土壌汚染の調査は欠かせません。
  原発事故から1年10ヶ月がすぎ、原発被災者、避難・移住者の生活はますます困難な状況になっています。支援法にもとづく具体的支援は直ちに開始されなければなりません。
(2)支援法の構成について
 ①目的(第1条)
 ・子供に特に配慮して行う被災者の生活支援などの関する施策の基本となる事項を定める
 ②基本理念(第2条)
 ・正確な情報の提供
 ・被災者自身が選択する権利(汚染地に居住、他の地域への移動、移動先からの帰還)
 ・それぞれに対する適切な支援を国が行う
 ③国の責務(第3条)
 ・原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護すべき責任
 ・これまで原子力を推進してきたことに伴う社会的な責任
  → 被災者生活支援など施策を策定し実施する責務
 ④基本方針(第5条)
 ・国は基本理念にのっとり施策の推進に関する基本方針を定める
 ⑤支援対象地域(第8条)
 ・支援対象地域(避難指示が行われるべき基準を下回っているが一定の基準以上である地域)
 ⑥情報提供(第12条)
 ・被災者に必要な情報を提供するための体制整備
 ⑦放射線による健康への影響調査、医療の提供(第12条)
 ・一定以上の放射線量が計測される地域に居住していたい子どもとそれに準ずるものに対する健康診断は生涯にわたって実施する
 ⑧意見の反映(第14条)
 ・当該施策の具体的内容に被災者の意見を反映し、当該内容を決める過程を被災者にとって透明性の高いものとするための必要な措置を講じる
 ⑨損害賠償との調整
 ・かかった費用のうち東電に求償すべきものは求償する
(3)避難・移住者に対する支援施策の内容(第9条)
  この法律は、国が原発事故による避難者、移住者に対して行うべき対策として、以下の支援策を規定しています。
 ①移動の支援
 ②移動先での住宅確保
 ③こどもの移動先における学習などの支援
 ④移動先における就業の支援
 ⑤移動先の地方自治体による役務の提供を円滑にするための施策
 ⑥支援対象地域の地方公共団体との関係の維持に関する施策
 ⑦家族と離れて暮らすことになった子どもたちに対する支援
 ⑧定期的な健康診断の実施、健康への影響に関する調査
 ⑨被災者への医療の提供、医療費の減免
 ⑩その他の施策
  これらの支援策は教育、医療、福祉、住宅支援、就業支援など、いずれも地方自治体が本来行うべき内容を含んでおり、また国がこれらの施策を実施する際には、地方自治体と密接な連携が不可欠な内容であるといえます。

6 「原発事故子ども・被災者支援法」を活かしていくために
(1)基本方針策定をめぐる状況
 ・別紙 要請書・署名用紙を参照してください。
  現在復興庁は基本方針の策定作業を行っており、2月下旬から3月上旬には策定される動きになっています。この基本方針に、どこまで被災当事者の要求を盛り込ませることができるのか、きわめて重要な時期を迎えています。
  関西では昨年11月27日に大阪で、28日に京都で「避難者がつくる公聴会」を開催し、復興庁から担当職員を招き、避難・移住者の切実な要求・要望を伝え、基本方針や具体的施策へ反映させるためにとりくんできました。復興庁は、中国、四国、九州地方には出向いておらず、各地の当事者団体、支援団体が連携して、復興庁を石日本に呼ぶ実行委員会が結成され、活発に活動を始めています。
  復興庁や関係省庁の対応状況をみると、必要最低限の支援内容で予算化し、そのレベルで基本方針を策定しようとしているように思えます。このままでは、原発事故被災者、避難・移住者の要求、要望を実現するものにならない可能性があります。京都への避難・移住者が大きく団結して、復興庁、関係省庁に要求していきましょう。
(2)当面する具体的な取り組み
 ①避難・移住者との対話集会の開催と復興庁、関係省庁の担当職員の招請
 ・対話集会では、復興庁、関係省庁から基本方針や具体的施策の実施案について説明を求め、避難・移住者の意見、要望、要求をぶつけていきます。対話集会を実現させるために、別紙の用紙署名への協力をお願いします。
 ②全国から上京し、復興庁要請、交渉を行います。
 ・2月15日に「避難・移住・帰還の権利ネットワーク」や首都圏の団体と連携して取り組みます。京都からもぜひ多くの方と上京し要請したいと考えています。ぜひご参加ください。 
③希望するすべての人に放射能健康診断と医療補償の実施を求める署名へのご協力をお願いします。
 ・この署名は、放射線被ばくの可能性があり希望するすべての人に、放射能健康診断と必要な医療の実施を政府に求めるものです。
④あきらめずに粘り強く取り組みを進めていきましょう
 ・現在は、基本方針、新年度からの支援施策の実施を求めていますが、たとえ基本方針や支援施策が不十分だとしても決してあきらめることなく、「原発事故子ども・被災者支援法」を活かして、粘り強く取り組んでいくことが重要です。これからの引き続きがんばっていきましょう。
 ⑤住宅問題について
 ・災害救助法により提供されている住宅支援について、「原発事故子ども・被災者支援法」に基づく住宅支援に移行し、長期の無償提供するように京都府・京都市に求めていきましょう。 
・必要に応じて、京都府議会、京都市議会への請願も検討していきましょう。
by fukushimakyoto | 2013-01-30 22:59 | 原発避難者支援法