2015年 05月 24日
「命綱絶たれる」 住宅無償提供求める
東京)
平岡妙子、青木美希 松沢憲司
東京電力福島第一原発の事故で、避難指示を受けていない「自主避難者」の住宅について、福島県は無償提供を2016年度で終える方針を固めた。都内で避難生活を送る人らは「健康への不安がある」「福島へは戻りたくても戻れない」として、延長を訴える緊急署名を20日、内閣府に提出した。
「自主避難者だけを切り捨てる施策だ。無償提供を打ち切らないでほしい」。国際環境NGO「FoE Japan」と45団体が無償提供終了方針の報道を受けてネットなどで急きょ集めた署名は3967人に上る。満田夏花(かんな)理事は「避難指示区域の解除が進んでいく中で全ての避難者に関連してくる話だ」と言う。
「ひなん生活をまもる会」の鴨下祐也代表は、福島県に対して15日、無償期間の長期延長を求める4万4978人の署名を提出したばかり。鴨下代表は「住まいは私たちの命綱。延長を訴えたばかりなのに、県から裏切られた気持ちがする」と話した。
内閣府は「福島県が打ち切るとの話は聞いてない」として要望を受け取った。
都内には福島県からの避難者が4月時点で6040人いて、全国で最も多い。そのうち政府からの避難指示を受けずに避難した「自主避難者」は2404人で4割を占める。
避難指示区域に住んでいたかどうかにかかわらず、11年12月までに避難した人には公営住宅などが無償で提供されてきた。期間は原則2年で1年ごとに延長され、現在は16年3月までとなっている。
■「子の健康思えば戻れない」
自主避難者には、放射能汚染による子どもへの健康被害を心配した母子避難者が多い。
福島県いわき市から避難してきた30代の女性は、小学生の長女、ダウン症の長男、2歳の双子の4人の子と元公務員宿舎の一室で暮らしている。夫は地元で働いており、会えるのは月に1、2度しかない。
昨年4月、長女が甲状腺検査で小さなのう胞(液体の入った袋)が見つかり「A2」と判定された。心配する大きさではないと言われたが、ショックだった。都内の総合病院の医師に「しこりを見つけたら教えてください」と言われ、半年に1度、検査に連れて行く。「放射線量を事故前と同じに戻してから帰れと言ってほしい。子どものためにはとても戻れない」と困惑する。
いわき市から避難した別の30代の女性も「20年、30年後も安全と言い切れるんですか」と憤る。
避難当時0歳だった娘は5歳に。夫はいわきで働いていて、母子は都営住宅で暮らす。今の住宅に住めなくなれば、二重生活で経済的負担が多大になる。今はアルバイトをしているが、家賃のためにフルタイムで働かざるをえなくなる。「子どもが独りぼっちになってしまう。子どもにしわ寄せがいく」
住宅支援打ち切りについての報道を知り、「県に見捨てられた感じがする」と肩を落とす。「『帰って来ないのなら県民じゃない』と言われているようだ。本当は家族で幸せに暮らしていたかった。避難せざるをえない人たちの気持ちをくみ取ってほしい」
武蔵野市の男性(72)は、「自然豊かな土地で暮らしたい」と退職後に移り住んだ家が福島県田村市にある。放射線量が高く避難してきたが、売ることもできないままだ。武蔵野での暮らしにも慣れた。近くに住む避難者同士、心の中を打ち明けられる。「田村市では原発の話はみんな触れない。住まいがなくなれば戻らざるをえないが、ジレンマがある。不安だ」(平岡妙子、青木美希)
■「みなし仮設」の6割が定住希望
東日本大震災から4年がたち、都内に避難している被災者向けのアンケート結果を都がまとめた。今の生活での困り事や不安では6割が「住まいのこと」を挙げた。「みなし仮設」に住む世帯のうち6割が都内での定住を希望した。都は長期化する避難生活を支えるため、27日に相談所を新宿区に新設する。
アンケートは2~3月に2916世帯に郵送で実施、1144世帯(39%)から回答を得た。回答者の被災時の県別内訳は福島が937世帯(82%)、宮城が127世帯(11%)、岩手が61世帯(5%)など。
生活での困り事や不安を複数回答で尋ねると、「住まい」62・2%、「避難生活の先行きが不明」45・6%、「生活資金」43・5%、「健康や福祉」37・3%、「就職」20・6%の順に高かった(表参照)。
都営住宅や公務員宿舎、民間賃貸住宅の「みなし仮設」に住む721世帯のうち、450世帯(62・4%)が都内での定住を希望。地元に戻りたいという世帯は179世帯(24・8%)で、このうち「無償での提供が終了した時に戻りたい」と回答した世帯は146世帯に上った。
世帯の代表者の年齢を見ると、60歳以上が558世帯と半数を占めた。59歳以下の代表者540人の就業状況は、正規雇用が210人(38・9%)、非正規雇用が153人(28・3%)、求職中を含む無職が138人(25・6%)だった。
抱えている問題や要望を自由記述する欄には537件の意見が寄せられ、7割超の389件が住居についてだった。「賃料を払って住み続けられないか。立ち退きの不安があり、生活再建の自覚が持てない」「地元の災害公営住宅に入るまで無償提供期間を延長して」といった声があった。
都はこれまで、都内避難者支援課の職員5人を中心に都庁で相談に応じてきたが、27日に飯田橋駅前の飯田橋セントラルプラザ内に相談拠点を新設。都社会福祉協議会の職員2人が常駐し、平日午前9時半~午後5時、対面や電話(03・5946・8655、27日に開通)で相談を受ける。舛添要一知事は「不便な生活を送っている方々の、一日も早い生活再建に役立ててほしい」と話す。(松沢憲司)
by fukushimakyoto
| 2015-05-24 23:17
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