2021年 08月 11日
報告:人権侵害の避難者追い出し第2回裁判(8月6日)
報告:人権侵害の避難者追い出し第2回裁判(8月6日)
コロナ感染者数が急増した8月6日、福島地方裁判所で人権侵害の避難者追い出し第2回口頭弁論が開催された。「避難者の住宅追い出しを許さない会」は裁判に先立ち、35度の猛暑の福島駅前でのぼりを立て、道行く人に避難者の住宅確保を訴えた。“避難者をいじめるな”“住宅提供を行え”など、のぼりは注目され「県はそんなひどいことをやっているのか」と驚いた様子。「復興オリンピックだなんて誰も思っていないのでは」と話した。
地裁前には約20人が集まって、リレートーク。ひだんれん(福島原発事故被害者団体連絡会)の大河原さき事務局長は「昨日、住宅問題で福島県と交渉した。(家主でもない)県が訴える根拠はなく、提訴取り下げを求めたが一向に耳を貸さない。生活困難な避難者を追い出すとは人道的にも許されない。ずっと支援していく」。避難の協同センターの松本徳子共同代表は「原発被害は災害救助法では救われない。救えていないうえに、県自らが被害者の県民を訴えるとは許せない。理不尽なことに声を上げよう」呼びかける。
宮城県からは、女川原発再稼働に反対する市民の大原真一郎さんがかけつけた。「今でも土壌は放射線管理区域なのに、そこからの避難者を追い出すとは何事か。国際法に反した人権侵害だ。応援するので頑張りましょう」とエールを送った。
法廷には、2人の弁護士とともに2人の避難当事者が参加する予定だったが、1名は職場でコロナが発生し急きょ来られなくなった。大口昭彦弁護団長は冒頭、「緊急事態宣言を発出し政府は県をまたがる行動をとらないよう呼びかけている。東京地裁への移送を認めず、宣言下でも裁判を強行することで、被告(避難当事者)の声が反映されにくくなる」と抗議。今後の進め方については「本事件は論点は多岐にわたり、社会的にも影響を及ぼす。十分な審理と慎重な判断がなされるために単独(裁判官一人)ではなく合議審理(裁判官3人)が必要」と申請したが、裁判長は「合議審理は考えていない」と突っぱねた。
大口弁護士は、提出した準備書面(3)を説明した。「そもそも県が(所有者である)国に代わって明け渡しを請求する権限がない」と主張。「債権者代位権の3要素のいずれも満たしていない。県は物件の所有者でも転貸人でもない。所有者の国は現時点でも避難者に対して明け渡し請求の意思を示していない。却下を求める」と述べた。
続いて柳原敏夫弁護士は準備書面(2)を説明。「未曽有の過酷事故が起きたのに、古い社会現象の下での法・制度で対応しようとして、現実に追いついていない。新しい事情に対応しようとするとき、国際法が生かされなければならない。社会権規約11条1項『適切な住居』『国内避難民に関する指導原則』などにより、追い出しは明らかに違法である」と訴えた。
裁判長は、次回は県側に反論を求め、避難者側には立証計画の提出を求めた。「本来は、何回かの応酬を経て議論が出尽くしたころに立証計画を整理するよう言われるものだが、始まったばかりで出せとは、早期に幕引きしたい姿勢の表れだ」(大口弁護士)次回第3回口頭弁論は、10月8日(金)午後3時となった。
報告集会は裁判所横の福島市民会館で開かれ、約30人が参加した。集会を主催した「避難者の住宅追い出しを許さない会」からは熊本美彌子世話人代表がお礼と報告。ひだんれんが入手した昨年2月10日の福島県と財務省との会議メモを取り上げ、「生保世帯4戸や提訴した4世帯、2倍請求した世帯の計42世帯は、“退去が困難”と財務省に報告している。その上で、8世帯は『令和2年度の使用許可対象と考えてる』と報告。国から『3月上旬に正式な使用許可の要請を』との返事を得ているのに、3月25日には4世帯を提訴した。2倍請求の世帯は“退去が困難”と報告しておきながら、使用許可の延長申請をせず、昨年末には退去期限と提訴を示唆し、実家訪問までして明け渡しを迫った」と矛盾をついた。今後、裁判証言や財務省交渉で追及したい資料だ。
第2回口頭弁論を振り返って、大口弁護士は「コロナによる中等症でも自宅療養というのは、無策によって医療崩壊を招いたことを認めるもの。命を切り捨てる方針は原発も同様で、棄民の典型であるのがこの住宅追い出しだ。決して小さな事件ではなく、国際人権法にもからむ大きな視点から展開している」と意義を強調。「この事件は地方の裁判所の片隅でひっそりと、弁護士のやり取りで終わらせるような裁判にしてはならない。様々な運動と連帯し、裁判官に『大変なことだ』と認識させねばならない」と、支援の広がりを訴えた。
メディアは、朝日新聞、河北新報、福島民報、赤旗などが取材に入った。記者からの「自主避難者に対する理解のない状況もある中で、どう対策していくのか」との質問に大口弁護士は「汚染水放出への県民の怒りなど、在住者も本音のところ被ばくへの不安、行政への不信があるだろう。でもなかなか声を上げられない中で、矛先が避難者に向けられる状況は理解できる。避難者がここで声を上げなければ在住者はもっときつい。この裁判が、あなたがたも声を上げていいんだよ、というメッセージになればいいと思う」。
柳原弁護士は「裁判長は、国際人権法を持ち出すなんて強がりでしょ、県の主張を否定することなんてできっこないでしょ、といった雰囲気がありあり。これまでの裁判では、国際法は単なる情報提供として示された程度で、争点として法の解釈にかませて主張されたことはなかった。また、裁判所は提訴から1年4か月たち、遅れを取り戻そうという焦りが見える。だからこそ、本格的な議論に臨みたい」と決意を述べた。
報告集会の前席には、避難当事者の一人が顔写真は禁止の条件で弁護団と並んだ。代読の形だが、5月14日の第1回口頭弁論の感想を「裁判など経験するとは思ってもみなかった。不安だったが激励の声をかけてくれ、メデァの方も注目してくれ“一人個人の問題ではない”と実感した」とお礼を述べ、「都営住宅を希望してるが15回落選した。県の紹介する住宅も当たったが、今の収入では無理なところばかり。福島にはもう帰る家自体がない、勤めていた会社もない」と実情を訴え。
もう一人の当事者からは音声メッセージが送られ、会場に流される。「福島に行くつもりだったが前日に職場でコロナが発生し濃厚接触者が出勤できず、私がシフトに組み込まれた。非正規の立場でなかなか会社には逆らえない。東京は1日で感染者が5千人を超える事態なのに、福島まで出てこいと言うのはおかしい。裁判所というのは当事者の声を聞いてくれないのか、と思ったぐらいだ」と、強い口調。「今の職場は3つ目の職場。住居から通える、ようやく安定した職場を見つけたのに、家賃のより安い遠方に引っ越せば、また位置から職場を探すことになる。都営住宅並みの家賃なら何とかと、都営を希望したが世帯要件などの条件で入れない。引っ越し費用、初期費用を考えれば、民間賃貸住宅に越しても毎月の家賃支払いはすぐ困難になるので、先行きが見えない」と、行き場のない経済事情を話した。第1回口頭弁論は休みが取れずに欠席したが「報告を聞き、私たちのことを自分事のように受け止めて参加くださっていることを知り、大変励まされた」とお礼を述べた。
山形住宅追い出し訴訟・武田徹避難者代表の「東京からの交通費など費用は大変だろうが、カンパできるのか、裁判傍聴が必要なのか、私たちは何をすればよいのか見えてこない。どこからどんな方がここに集まってこられたのか、まずはお互いを知りあう機会にしませんか」との発案を受け、マイクは参加者に渡たされ自己紹介と感想、意見を出し合った。
福島原発被災者フォーラムの佐藤博幸(山形県米沢市)さんは「当事者の話を聞き、福島県は住宅確保の努力をしていないことがわかった。こういう具体的な事実を裁判でも訴えればいい。避難前と避難先での生活状況の変化、生活実態などをもっとアピールしてもらうと現在の大変さの理解も深まる」と積極的な意見。伊達市の安藤次男さんは、裁判所前でヘルメットを兜に仕立て「県知事はどこの知事だ、海を汚すな」と書き込んで抗議した。「県は(追い出し提訴は)間違っている。弱い者いじめだ。知事に何度面会を求めても出てこない」と怒る。
子ども脱被ばく裁判原告団長の今野寿美雄さんは最近、高放射能で帰られない浪江町の実家を解体した。「これで帰る家もなくなった。先日の津島判決は、国の責任を認めた点ではよかったが、ふるさとは喪失し不満が残る。『更地の歌』や朗読劇などを通して、問題を広げている」と話した。
ひだんれん幹事でかながわ訴訟原告団長の村田弘さんは「国・東電は、提訴している者は被災者全体の数パーセントで大方が賠償に満足して普通に暮らしているのにまだ文句あるのかと堂々と言い始めてる。そんな中で住宅問題は中心中の中心課題。何も罪のない被災者が強制的に追い出されるのは究極の人権侵害で、これを守れないようでは加害者に原発事故の反省をさせることはできない。この裁判を勝ちぬいて、原発被害全体を見直させる突破口にしよう」と、闘いの意義を訴えた。
国家公務員宿舎の地元となる東京江東区で、区議会・都議会に住宅確保を働きかけてきた小林和博さん、千葉訴訟の原告家族を支える会で活動する山本進さんら、許さない会事務局メンバーも自己紹介。
埼玉の国家公務員宿舎に住み、家賃相当額の2倍請求・追い出しの攻撃にさらされている避難者家族も参加した。「福島の今は安心・安全・風評被害と言われるが、基準越えの食品もあるし、海洋汚染も心配だし、原発から毎日新たな放射能汚染物が出ているし、そんなところに子どもを返したくない。子ども4人、10年の2重生活で経済的に追い込まれている。メデァ報道で自主避難者はわがままとかいった記事をよく見るがそんなことでいいのか。原発被害者の置かれた(帰りたい帰れないと苦悩する)実態を曖昧にしたままで(引っ越したらおしまいだと)終わらせていいのだろうか。力強く粘り強く報道してほしい」と訴える。
福島市から都内へ避難した避難の協同センター世話人の岡田めぐみさん。「私は、被ばくを避けるため、子どもの健康を守るために避難した。それで福島に戻れと言っても、土壌汚染も食品も測られていないので判断自体ができず、選択肢もない。追い出し裁判をかけられた方も何も悪いことして避難したのではない。ここできちんとした人権を勝ち取っていかねばならない。先日黒い雨裁判判決が出され被害者と交流した。(内部)被ばくの健康影響は否定できず、判決は長崎、福島にもつながるものだ」と、共同した闘いの大切さを呼びかけた。これに関連して武田さんは「山形訴訟で訴えられた8世帯の土壌測定結果を裁判所に提出した。私の家はキロ当たり10万ベクレルを超えていた。こういう場所に戻れるのか、子どもは育てられるのかといったアプローチが必要」と助言した。
作家の渡辺一技さんは「命をつないでいくにはねぐらが必要だ。私たちは内堀県知事に殺生与奪の権利を与えているわけではない。鳥でも蟻でも住処を作るが、ましてや人間は社会性があり、様々な条件の中で今の住まいを選択している。国や県にはその重さをわからせねばならないとの気持ちで、この裁判を支援していきたい」
国内避難民の人権に関する国連特別報告者を日本に招致するよう外務省に要請する運動が京都の避難者らをはじめ、市民団体共同でスタートしている。避難者の支援などを求める国連勧告の受け入れを了承しながら、日本政府は「やってます」とうその報告を上げるダブルスタンダードだ。原発賠償京都訴訟原告団からは連帯のメッセージが寄せられた。「司法の場で国際人権法を活用し、声を上げてくださる皆様の勇気に敬意を表します。国連特別報告者に、避難者に対する人権侵害状況を見ていただこうではありませんか。京都から、世界から皆様の裁判を応援しています」。集会の様子はリモートで京都にもつながれた。
最後に、許さない会の小川正明事務局長は「当事者は皆さんの励ましに触れ自信を持ってきている。現地の応援も心強い。3者は連携して次回10月8日に向け、運動を広げていきたい」とまとめた。今後の課題として、「カンパの集中、メーリングリスト作成などを通した情報・案内の共有、リモート集会など、参加しやすくわかりやすい窓口をつくることが、運動を広げるポイントになる」ことを挙げた。